【ソダテル】

5/10
前へ
/10ページ
次へ
「ペットを飼いたい願望が強すぎて、こうなっちゃったのかしら。こんなことなら、私が我慢して、飼ってあげればよかった。」 母はそう言って自分を責めた。 いずれにしても、このマンションに住む限り絶対にかなわないことだった。 両親は、マユのために、引越しも考え始めた。 一戸建てなら、ペットを飼うこともできるし、もっと良い環境の場所に住めば、マユの病気が治ると思ったのだ。 しばらくすると、マユは、せっかく買った鳥かごを捨てた。 「ピーちゃん、大きくなりすぎて、もうカゴに入らなくなっちゃったから、ベランダで飼うね?」 そう母に言ったそうだ。一向に妄想が治らないマユに、家族は疲弊していった。 幼稚園の友人にも、ピーちゃんを見せると言って連れてきても、居るはずもないピーちゃんを居るといい張るマユは、嘘つきだと言って泣かされた。 どうしてこんなことになっちゃったんだろ。 僕達は疲れ果てて、ついに母まで倒れてしまった。 母は入院してしまい、それでもなお、マユはピーちゃんピーちゃんとまるで憑かれたかのように、世話をした。毎日のように、冷蔵庫のものを、ベランダへと運ぶ。 不思議なことだが、その餌と称してベランダに運んだものは、綺麗になくなっていた。 マユが食べているのだろうか。しかし、生肉だったり、生魚だったり、とうてい調理しないと食べれないものまで、綺麗になくなっている。ゴミ箱も見たが、捨ててある形跡は無い。 そして、ある日、僕は見てしまった。 姿の無い、ピーちゃんが、捕食するところを。 その日、マユは体調を崩してしまい、熱を出して、床に臥せっていた。 「お兄ちゃん、ちゃんとピーちゃんに餌、あげてよ?」 そう言われ、もう否定するのも面倒だし、どうせ否定したところで、マユは譲らない。 適当に、わかったよと返事をしておいた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加