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家に帰ると、妹は浴衣を着せられていた。
そうか、今日はお祭りの日だった。
普段であれば、ウキウキと楽しい気分になるのだが、マユは僕の姿を確認すると、そっぽを向いた。
すっかり僕は、マユから猫を取り上げた悪者扱いだ。母が手を合わせて、ゴメンと僕に身振りで謝った。
ああ、こんなことならあのまま、コウスケと一緒に出かければよかった。
僕を恨んで不機嫌な妹と母とで祭りに出かけなければならないなんて。
長男は損な性分だ。何かといえば、都合の良いときだけ、親からお兄ちゃんお兄ちゃんと呼ばれる。
僕にだって、ユウキという立派な名前があるのに、妹が生まれた時から僕はお兄ちゃんという名前になった。
「父さんは?」
僕が母にたずねると、残業で一緒に行けないと返事が来た。
唯一、僕を名前で呼んでくれて、男同士、気持ちが通じる同志はまだ会社で戦闘中だ。
仕方なく、僕は、身支度を整えて、母とマユと一緒に、祭り会場に出掛けた。
マユはおてんばで、ちょっと目を離すとどこに行くかわからないから、目を光らせておかなければならない。
母はぼんやりしているところがあるから、すぐにマユは迷子になる。
だから、僕がしっかりしていなければならなくなる。
案の定、マユは僕がちょっと目を離した隙にいなくなってしまった。
「お兄ちゃん、マユをちょっと探してきて。」
そう言いつけられ、待ち合わせ場所を決めて、二人で手分けをしてマユを探した。
大方、マユが行きそうなところならわかってる。
きっと飼えないとわかっていても、金魚すくいをやらせろと言って聞かないのだ。
僕は、金魚すくいの屋台を探した。
金魚すくいの屋台は見つけたが、そこにはマユの姿はなかった。
おかしいな。たいてい、行き着く場所はここのはずなのに。
あとは、綿あめの屋台か、射的のところか。
マユはいつも僕に、射的で賞品をとってくれとねだるけど、あれはズルだからやりたくない。
ばっちり当たっても、的が倒れないから、きっと何かでとめてあるのだ。
射的のところにもマユは居なかった。僕は途方にくれ、神社の灯篭にもたれかかった。
すると、屋台の一番はずれの暗闇に赤い帯の見慣れた浴衣を見つけた。
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