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その直後、叫び声がした。
「ぎゃあああ!お兄ちゃん!」
僕は、ベランダへと走った。
「マユ!どうした!・・・・・!!!」
僕は、我が目を疑った。マユの頭が消えて、ベランダで手と足をジタバタさせていたのだ。
「マユ!マユーーーー!」
僕が叫ぶと、ベランダで物凄い風が起こった。目も開けられないほどの風圧で、バサバサと、何か大きなものが羽ばたくような音がした。あっという間に、マユの胴体、手、足の順に何も無い空間に、その姿は消えてしまった。一瞬、稲光がピカッと光った時に、僕はついに、その姿を見た。
そいつは、まるでライオンのような頭を持った、体は大きな鳥のようであった。
騒ぎを聞きつけて、父が駆けつけた時には、ベランダに、マユの履いていたサンダルの片方のみが残され、羽音は遠ざかっていた。
「どうしたんだ!マユはどこへ行った!」
父が呆然としている僕の肩を揺さぶった。
僕は、今あったことを、父に説明したが、とうてい信じてもらえるはずはない。
父は誘拐として、すぐに警察に捜索願を出した。
マユは助からないかもしれない。
入院先から、まだ完治していない母が急遽帰ってきた。
その日から、警察、町内会による、大捜索が始まった。
僕だけが知っている。マユはあいつに連れ去られたんだ。
必死の捜索にも関わらず、マユは見つからなかった。
母は毎日、泣き暮らし、父はビラ配りに余念がなかった。
僕ら家族の生活は、めちゃくちゃになった。
僕の面倒を見切れない父と母は、やはり僕を父の田舎に預ける決断をした。
「行って来ます。」
僕は、自分の荷物をリュックに詰めて、駅のホームに立っていた。
「ごめんな、ユウキ。」
父さん、そんなに心配そうな顔をしないで。僕は大丈夫だ。
僕は改札で、笑顔で父に手を振った。
父の背中を見送ると、僕は、すぐにリュックの中から、自分の携帯を取り出した。
「ああ、おばあちゃん?僕だよ。ユウキ。今日そっちに向かう予定だったんだけど、ちょっと予定が変わったんだ。一週間後にそっちに向かうから。」
そう告げると、僕は電話を切った。
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