【ソダテル】

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「頭がライオンで、体が鳥の形をしていた。妹を飲み込んで、どこかに飛んでいってしまった。」 そう伝えると、店主はどこか焦点の合わない視線を空に這わせた。 「そうかい。あの卵は、ズーの卵だったんだねえ。」 そう呟いた。 「ズー?」 僕がたずねると、店主は視線を僕に戻すと答えた。 「そうだよ。悪魔さ。ヤツは狡猾で、幻術を使うから、きっとあの子は騙されたんだろうねえ。」 人事のように話す店主に怒りが沸いてきた。なんでそんな恐ろしい卵を妹に渡したのか。 「妹を返せ!」 僕が叫ぶと、店主は不敵にニヤリと笑った。 「あたしも、あれが何になる卵かまではわからないからねえ。妹に会いたいのかい?」 「どこにいるのか、知ってるのか?」 「どうしても、会いたいのかい?」 「僕は必ず、妹を連れ戻す!知っているのなら案内してくれ。」 店主はしばらく考えると口を開いた。 「お嬢ちゃんを連れ戻すのは、かなり難しいと思うよ。よほどの覚悟がないと無理だよ?」 僕がなんとしても連れ帰る意思が変わらないことを告げると 「仕方がないねえ。こっちに来な。」 と席を立った。 罠かもしれない。そう思ったけど、妹を、マユを連れて帰るためだったら何だって怖くない。 僕が臆病風に吹かれて、あのベランダのピーちゃんを追い払わなかったことにも責任があるのだ。 「ここさ。」 神社の裏山に小さなお堂があり、そこの扉が開いていた。 そこから、小さな手が出ていた。 (お兄ちゃん、助けて) 脳に直接、マユの声が助けを求めてきた。 「マユ!マユ!今助ける!」 僕は、お堂の扉から出た、小さな手を掴んだ。 その途端、手に激しい痛みが走った。 手の甲を見ると、何かカギ爪のようなもので引っかかれたような跡が三本残っていて、そこからダクダクと血が流れた。それでも、僕は、マユの手を離さなかった。凄い力で、マユの手を誰かが引っ張っているような気がした。マユの力ではない何か。思いっきり引っ張ると、マユの頭が出てきた。 「お兄ちゃん!」 マユが叫んだ。 「もう少しだ。今、助ける!」 僕は渾身の力で、マユの両手を引っ張ると、ズルリとマユの体がこちらに抜けた。 マユがワンワン泣き出した。 「マユ!マユ!良かった!助かった!」 僕も泣いていた。しばらく、僕とマユは抱き合って泣いた。
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