風に散って

2/3
前へ
/46ページ
次へ
この街に住んでいれば、四月に桜を見上げることより、雪の残るアスファルトに視線を落とすことの方が多い。 去年もそうだった。何も変わっていない。 でも、もうここに彼女の名を口に出す者は誰一人居ない。たぶんその内、記憶の中で彼女の顔は滲んでいって、彼女の名前もわからなくなって、その存在をこんこんと忘れていくんだ。 また一年が経てば、皆忘れたことさえ、忘れてしまうだろう。
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加