第1章

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 はっと目を覚ます。いつの間にか眠ってしまっていたようだ。ガタンゴトンと電車が走っている音が聞こえてくる。慌てて左右を見回す。窓ガラスに疲れ切った二十代半ばの女の顔が映っていた。ひどい顔だと自分でも思う。 最近仕事が忙しくて睡眠不足だったからなぁと首を曲げる。肩のあたりに鈍い痛みがある。肩こりもずっと長い間治っていない。 周囲を見回す同じ車両の中には人が誰もいなかった。窓の外を眺めると外は真っ暗になっていて今どこを走っているのか分からない。 「寝すぎちゃったな」  今、どの辺りを走っているのだろう。終点までいっていないだけまだマシか。次はどの駅だろうと路線図を眺める。この辺りの電車は私鉄なので電光掲示板なんて便利なものはついていないので、今どこを走っているのか分からない。私の家は終点の二つ前の駅なのでそれより手前だといいなと思う。駅と駅の間が短いからすぐ次の駅に到着するだろうと思い座席に座りなおす。  でも、私は一体どこから帰ろうとしていたんだろう。記憶がはっきりしない。頭がぼーっとしている。そもそも今日は何曜日だっけ? 毎日会社と家を往復している毎日を過ごしていると曜日感覚がなくなってくる。早く帰って風呂に入ってベットに飛び込みたい気分だった。「ピーガッ」と放送が入る直前にいつも聞こえるノイズが社内に響いた。 「次は生方駅ー。生方駅ー。お出口は左側になります」  車掌の気の抜けた声が聞こえてくる。私は耳を疑っていた。もう一度車内を見回すがやはり誰も乗っていない。私の疑問に答えてくれる人はいないようだった。 「生方駅?」  思わずつぶやいていた。口に出してみても違和感がある。私がいつも使っていたこの路線には生方駅なんていう名前の駅はなかったはずだ。座席から立ち上がり路線図に駆け寄る。一つずつ駅名を確認してみてもやはり生方という駅は載っていない。 「どうなってんの?」  頭を抱えそうになる。なにこれ悪い冗談にもなっていない。携帯を取り出して恋人の幸二に電話をしようとして、指が止まる。そうだ。幸二とは喧嘩しているんだった。今、幸二に助けを求めるのは癪だったし、何よりこんな意味の分からない状況を説明しても馬鹿にされるだけだろう。
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