第1章

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 幸二の顔が浮かんで怒りが沸いてくる。そもそも浮気をして謝りもしない男なのだ。あんな奴に助けを求めたくない。幸二の通話画面を消して代わりに友達の智子の電話番号を呼び出す。電話を掛けようとしてまた指が止まった。時計をみるもう深夜0時を過ぎてしまっている。こんな時間に電話をするのも迷惑だろう。とりあえず、SNSでメッセージを飛ばしてみることにした。 「突然変な事聞いて悪いんだけど、生方駅って知ってる?」  もう寝ている時間かもしれないと思いながらも携帯を眺めているとすぐにメッセージが帰ってきた。 「いきなり何?」  こんな時間に変なメッセージを受け取って怒っているのかもしれないと思うと申し訳なくなる。 「ごめん。なんか、電車で寝ちゃって目が覚めたら次は生方駅って言われたんだけど。私、そんな駅知らないんだよね」」 「何それ? いつもの電車でしょ?」 「そのはずなんだけど……」 「ははーん。さてはインターネットの怖い話読んだでしょ?」  冗談めかしたメッセージが返ってきて私は混乱する。 「どういうこと?」 「電車で寝ちゃって目が覚めたら見知らぬ駅に止まって降りちゃったって話。少し前に流行ったやつでしょ。私が怖がりだと知っててからかうつもりなんでしょ」 「何言っているの? 私、そんな事で智子の事からかったことないし、そんな話知らないよ」  私は必死でメッセージを打ち込む。その気持ちが伝わったのか智子も真剣にメッセージを返してきた。 「一つ聞きたいんだけど」 「何?」 「生方駅って本当に知らないの?」  メッセージの意味が分からず何度か読み返すがやはり文字通りの意味しか読み取れなかった。 「知らないけど」 「そう」  それだけメッセージが送られてきてその後返信がなくなった。三分程経ったところで怖くなって智子に電話を掛ける。 『おかけになった電話は現在電波の届かないところにあるか電源が入っていないため……』  機械的なアナウンスが流れてきて私は思わず泣きそうになるぐらい不安になる。 「電話つながらないんだけど」  怖くなってメッセージを送る。 「私も、何度か恵に電話かけてるけど繋がらないんだよ。電源は入ってるよね?」 「もちろん」 「メッセージやり取りできてるんだもんね。一体どうなってるの?」  それはこっちが聞きたかった。
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