第1章

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 笑いながら自分を評価する幸二の表情が思い浮かぶ。私は幸二のそういうところが素敵だと思うと言った時、照れくさそうに笑う幸二の表情に思わずときめいたのを思い出す。 「素敵な人ですね。そういう人がいると人間関係がとても素敵になるとおもいます」 「そうなのよ。うちの会社って正直給料は安いし休日も少ないくせに仕事は多いっていうブラック企業だけど、社員仲はいいのよね」 「告白したのはどっちからなんですか?」  四季の質問に思わず顔が赤くなる。 「ああ。恵さんからなんですね」  私はうつむきながら小さくうなずく。 「私は、幸二に出会うまで恋愛っていうのがよくわからなかったんだ。皆が素敵だっていう人たちを見ても特になにも思わなかったし、人を好きになるっていうのがどういうことなのかよく分からなかった」 「幸二さんと出会ってその気持ちが分かったんですか?」  私は首を横に振る。 「今でも人を好きになるっていう気持ちはよく分からないまま。でもね、一緒に居たいって思うんだ。体に触れていたいって思うんだよ。ある日突然わいてきた感情じゃなくて、気が付けばいつの間にか私は幸二に触れたいって思っていた。一緒に居たいって思っていた。幸二に好きって思われていたいって思うようになったんだ。これが私にとっては好きっていう気持ちだと思う」  そこまで言って私あh恥ずかしくなって視線を四季からそらした。 「中学生みたいな理論だね」 「私は好きですよ」  にこにこ肯定してくれる四季の顔を見てさらに恥ずかしくなった。 「恵さんは幸二さんの事今でも好きなんですね」  四季の言葉に自分の表情が曇る。 「でも、好きだったのは私だけだったみたい」 「そんなことないんじゃないですか?」 「でも、結婚式をすっぽかされたんだ。私の事好きじゃないでしょ。完全に」  四季が言葉を失う。この事を誰かに自分の口から話したのは初めてだった。口にすることすら私にはできなかったのだから。でも、一度口に出すと分かった。私は誰かに吐き出したかったのだろう。言葉が堰を切ってあふれだしてきた。 「式場も決めて、招待客も決めてプランも決めてさ、忙しい仕事の合間を縫って一生懸命決めたんだ。ウェディングドレスを試着した時は綺麗だって言ってくれたのに。全部嘘だったんだ」 「嘘ってことはないでしょう」 「幸二は結構簡単に嘘をつくからね」  私は苦笑しながら言った。
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