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四季の言葉に自分の気持ちを振り返る。不思議と悲しくなかった。
「悲しくない。私は怒っているから」
「なんで怒っているんですか?」
「だって、幸二は本当は智子の事が好きで結婚式から智子と一緒に逃げようとしていたんだから」
「本当にそうなんですか?」
そうだ。だって、一命を取り留めた智子が泣きながら謝ってきたのだ何度も何度も。恵を裏切った天罰だって。
私は怒っていた。私を裏切った幸二よりも、私よりも好きな人がいるのに私を選ぼうとしていたことに。
「そうだよ。私は、幸二に怒っているんだ」
「幸二さんと話してみましたか?」
「話せてないよ。だって死んじゃったんだよ。話したくたって話せないよ。会いたくたって会えないんだよ」
涙があふれてきた。自分のことながらどうして今なんだと思う。幸二が死んだという事実よりも、幸二ともう話せないということが悲しい。幸二の本当の気持ちを確かめることができないのが悲しい。
「話してみますか?」
四季が突然言った。私は目を見開く。
「できるわけないじゃない」
「いえ、意外と簡単にできるんですよ。幽霊って信じる人ですか?」
私は首を横に振る。
「じゃあ、今日から信じてくださいね」
にっこりと笑って私の肩に触れる。突然目の前に人影が現れた。
「嘘……幸二……」
目の前には確かに幸二が立っていた。気弱そうな笑みを浮かべて困ったように私を見下ろしている。
「幸二。幸二。幸二」
私は何度も幸二の名前を呼ぶ幸二は呼ばれるたびに小さくうなずく。
「ごめん。先に死んじゃって」
本当に申し訳なさそうに謝る。
「本当だよ。なんで死んだの」
また、困ったように笑う。
「ごめん」
こちらが怒っているのバカバカしくなるほどの気の抜けようだった。いつもそうだ。私が感情をむき出しにして、幸二がそれを受け止めてくれる。いつもの幸二だった。幽霊でも何でもいい。幸二と話をできるというのがうれしかった。
「一つだけ聞かせて」
「なんでも聞いて」
「ううん。一つだけでいい。でも、本当の事を言って。私に気を遣わず本当に幸二が思っていることを」
幸二がうなずき先を促すように私を見つめる。
「今、本当に幸二が好きなのは誰?」
一瞬の間。永遠のような間があった。そして、幸二は言った。
「君だよ。恵。僕は君以外を本気で好きになったことは無いし、なれたことはなかったよ」
「そう。そうだったんだ」
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