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「おかえりなさいませ、ご主人さま」
玄関の戸を開けると、使用人のアンダンテが人懐っこい笑みを浮かべ、いつものように出むかえてくれた。彼にとっては見慣れた光景だ。なのに、どこか違和感があった。
ロングスカートの裾を豪快に踏んづけている彼女の足を盗み見ながら、彼は違和感の正体に気づいた。
「いや、それは私のセリフだよ、アンダンテ」
溜息交じりに伝え、彼は眉間を押さえた。
「ふぇ? わたしはここの主人じゃありませんけど」
彼の言わんとすることを理解できず、アンダンテは、ぽけーっとした表情で首をかしげている。やはり気づいてないようだ。
「違う。私のほうが『おかえり』って、きみに伝えなければならないんだ」
「ふふ。ご主人さまったら、おかしなことおっしゃらないでくださいよー。わたし、今日はどこにも出かけてませんよ」
「……当然の反応か。実際に見せたほうが早そうだな」
無邪気に笑うアンダンテに、彼はしぶしぶ片手を伸ばした。小さな頭をわしづかみにする。直後、彼の細い腕からは想像できない力で、ひょいとアンダンテを軽々持ちあげた。
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