** エピローグ・母の章 **

2/6
前へ
/199ページ
次へ
 五十を過ぎたオバサンには、キツイ山道だ。  来る度に思う。車を降りて一時間、厳しい傾斜に伸び放題の草々。確かに人は寄り付かないが、それにしても他に良い場所は無かったのかと思う。  何か気を紛らわしたい。そう思った私の脳裏に降りてきたのは、随分前に亡くなった祖母だった。  彼女は、この旧山向村で生まれ育った人で、村の怪しい言い伝えをたくさん知っていた。ここは昔から神隠しの事例が後を断たない曰く付きの村で、その原因は村外れにある黄泉小径だと言っていたのを覚えている。  あそこに足を踏み入れると、例外なくあの世に連れていかれてしまうという。しかも、何処の某が黄泉小径に入ったらしいと噂をすると、その者まで道連れになってしまうらしいのだ。  したがって、かつてこの村では、行方不明者が出ても一切探さなかったらしい。下手な事をすると自分達の身も危ない、とこういうわけだ。  もっとも、その祖母も晩年は痴呆が進んでしまったのか、誰々が居なくなったのはおゆいさまのせいだ、とかしきりに言っていた。私はそれを聞きながら、ああやっぱり迷信は迷信なんだな、と思った記憶がある。
/199ページ

最初のコメントを投稿しよう!

122人が本棚に入れています
本棚に追加