壱、平成二十六年

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   * 深夜 2:30 *  深夜の高速道路はとにかく車が少ない。時々、トラックがいるくらいだろうか。  その交通量を良いことに、翔太はとばしたい放題に車をとばす。  日の出が遅くなったとはいえ、もう深夜も二時を回る。目的地を知らされてはいなかったが、急がなければならないくらいの距離がまだあるのだろう。何しろ、日の出までにその場所へ向かうだけではなく、そこで洋子さんを隠さなければならないのだ。  とは言え、そろそろ降りないと時間が足りないのではないか。私はふと、高速の行先に思いを向け、降りそうなインターチェンジはどの辺になるか、推測を立ててみた。  余計な事をした。頭から血の気が引いていくのが自分でも分かる。 「……翔太」  ここまで恐怖で聞き出せなかったことだが、たまらずに尋ねた。もし私の予感が当たっていたとしたら、この男、本当に腐っている。 「これ……どこまで行くの?」 「……」 翔太は答えない。 「まさか、私ん家とか言わないよね」 翔太は、何も答えない。  そう。このまま行くとこの車、私の実家の近くのインターチェンジで降りる計算になるのだ。翔太は一度だけ私の実家に来たことがあり、確かにある程度は道も分かっていると言えるのだろうが。 「……」  自分の都合の悪い事は、とにかくごまかす男だ。黙っているという事は、おそらく図星だったのだろう。  どうして、こいつはこうなのだ。殺人をばれたくない気持ちは百歩譲って理解できるとしても、そのための行動があまりにもおかしすぎる。頭が悪いとか、そういう次元ですらない。  私と翔太の関係くらい、少し調べればすぐにわかりそうなものだ。そんな私の実家から洋子さんの死体が発見され、洋子さんの血が翔太のアパートから見つかれば、私たちが何をしたかなど、小学生でも理解できる。  こらえきれず、私は頭を抱えた。恐怖と怒りと混乱で、涙が出た。いっそ、私が翔太を殺してしまおうか。そんな考えさえ頭をよぎった。  私が、そんな葛藤と必死で戦っていると、 「……ヨモツコミチ……」  たっぷりすぎるくらい時間が空いてから、翔太は返してきた。
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