壱、平成二十六年

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   * ?????? *  初めて足を踏み入れる、黄泉小径の中。  しかも、こんな時間に、人様の死体を運びながらである。  私と翔太は、照明の無いまま足場の悪い竹藪を進んでいく。耳元でハエがうるさい。  目の前の男は簡単にしか聞いてないから知らないだろうが、ここには本当にたくさんの言い伝えがある。  頭の中に浮かんでくるそれらを必死で無視しようと努めながら、私は洋子さんの足を持ち上げ続けた。  と、私はここでとんでもない点に気が付く。 「……ねえ、翔太」 「なんだよ」  翔太は面倒くさそうに自分の足元を見ながら返事をした。 「スコップとか、持ってきてないよね?」  そう。あまり考えたくない事だが、もし遺体を本気で隠そうとするなら、穴を掘って埋めるのが妥当なところだろう。いくら足を踏み入れる人の少ない黄泉小径だからと言って、その辺に捨ててハイおしまいでは絶対にいつか見つかってしまう。 「大丈夫。ちゃんと車に積んできてるから」  が、返って来たのは意外な答えだった。多分、私を呼ぶ前に準備をしたのだろう。しかしそれなら、 「何で一緒に持ってこないのよ!一回戻らないといけないじゃない!」 「オイ、そんな事で怒るなよ」  どうして『そんな事』になるのか。一分一秒を争うつもりでいたのは私だけなのか。 「いいから!今から持ってきて!……一回下ろすわよ」 「え、コラ待て……ちっ、分かったよ」  渋々腰を曲げる翔太とともに、私は洋子さんを地面へ下ろした。  その瞬間。  ザザッ!  遺体が、大きく一度ビクリと動いた。 「えっ!?」  突然の出来事に私も翔太も凍りついた。思わず、視線を交わす。  額や脇から、変な汗が出るのを感じる。頭に血がのぼっているのか引いているのかも分からないくらいな混乱が私を襲った。
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