壱、平成二十六年

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「……お前、今何かやったか?」  翔太がそう聞きたくなる気持ちは理解できるが、あいにく私の方に心当たりは無かった。正直に首を横に振る。 「じゃあ、何だよ今の」 「さぁ……」  確かに、ここは死後の世界と繋がっているとされる場所だ。死者が蘇るという伝承も聞いたような記憶がある。  しかし、伝承はあくまで伝承だ。一回死んだ人が生き返るなんて事が、実際に起こる訳がない。私は凍てついた体を動かせないまま、必死で自分を納得させようとした。 そこへ、 「なにをしてるの?」  後ろから声がした。  まったく気配を感じなかったので、それこそ死ぬほど驚いた。私は悲鳴を上げて振り返り、そして見てしまった。  振り返った先にいたのは、中学生くらいの女の子だった。薄茶色く汚れたボロボロの着物を身にまとい、気の毒なほどやせた姿でこちらを見ている。  幼い頃に聞いた『おゆいさま』そのものだった。  黄泉小径に宿る水先案内人、おゆいさま。その姿を見た者は例外なくあの世へ連れて行かれるという。  言い伝えそのままの格好の水先案内人は、驚きと恐怖で身動きが取れない私たちにそれぞれ一瞥をくれると、ふと視線を毛布に移した。 「また、勝手にこんな事……」  無造作に洋子さんに近づくおゆいさま。翔太は彼女の話を聞いた事がないはずだが、真っ青な顔で目を見開いたまま微動だに出来ないでいた。  翔太のいる側、つまり洋子さんの頭がある辺りの毛布を雑にずらすおゆいさま。血まみれの新聞紙が顔を出すや否や、それを破って何か長いものが唐突に伸び上がり翔太の首にぶち当たった。
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