壱、平成二十六年

14/15
前へ
/199ページ
次へ
「!?」  何か言う暇も無かった。長いものはもがく翔太を持ち上げて2メートルほどの高さまで伸びると、弄ぶかのようにブラブラと揺らし始めた。  それが恐ろしく長い腕であることに気づくには、しばらくの時間が要った。だって、あんなところから腕が出るわけがないし、万一出せたとしてもこんな滅茶苦茶な長さの腕なんかある訳がない。その手は翔太の首を締め上げたまま、揺らし方を見る見る激しくしていった。彼の体が竹に何度もぶつかる。  翔太は何か叫んでいた。が、首をしっかり握り締められているうえに、無茶苦茶な振り回し方をされているので、全く聞き取れない。 「かわいそうな人。よっぽどひどい殺され方をしたのね」  無感情におゆいさまは言う。この人は、この光景を見て事情を理解出来るのだろうか。 「……」  ほどなく、長い手はゆっくりと翔太を降ろした。そして、全く動かなくなった翔太を尻目に、手は闇に溶け込んで見えなくなった。  おゆいさまは、翔太の方へ一瞥をくれると、そのまま私の方へ近寄ってきた。 「……え?」  黄泉の世界の案内人が、しっかりと目を合わせてくる。私は恐怖のあまり、逆に視線を逸らせないでいた。翔太が死んだのか気絶しただけなのか、気にする余裕もない。 「……あなた……」  少しして、おゆいさまはにんまりと笑った。中学生らしいさわやかさなんか微塵も感じない、禍々しい笑顔だ。 「……今日は、良い日……」  ささやくような小さな声。独り言なのだろうか?正確に聞き取れた自信がない。  だが、 「……ようこそ。待ってたよ……」 「え?」  次に聞こえたおゆいさまの言葉に、私は耳を疑った。言い伝えで聞いてきた『おゆいさま』が、『私』を待っていたとは、どういう事なのか。
/199ページ

最初のコメントを投稿しよう!

122人が本棚に入れています
本棚に追加