** エピローグ・母の章 **

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 「居なくなった」でさらに思い出されたのが、私の姉と妹だ。  まだ私たち姉妹が子供だった頃、草がぼうぼうに生えた神社の裏で遊んでいた時の事だ。  確か、三人で手を繋いで走っていたんだと思う。そこへ、妹が何かにつまづいて転んだのだ。  つられて、三人ともまとめて転んだ。しかし、起き上がったのは私だけだった。 「姉ちゃん?真由?」  相当な不安に襲われたのを覚えている。  幸い、姉はすぐに見つかった。転倒した拍子に遠くまでころがってしまったのだろう。少し離れた場所で草から顔を出したのだ。土が口内にでも入ったのか、苦々しそうに唾を吐いていた。  私はこの時、妹もどこかに倒れているのかと思って楽観していた。ところが、彼女は何処にもいなかった。神社の裏で転んだ、それだけで妹は行方知れずになってしまったのだ。  異変はこれだけではなかった。この時の姉の記憶が、恐ろしく曖昧だったのだ。 「姉ちゃん、転んだのは覚えてる?」 「私が?」  冗談かとも思ったが、姉は本気のようだった。そんな様子を見て私は、このまま姉もどこかへ消えてしまうのではないかと不安にかられたものだった。が、まさかそれが20年近くも経ってから現実になるとは思わなかった。
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