弐、平成三年

5/17
前へ
/199ページ
次へ
       *  その日は仕事が休みだったので、高校時代の友人と二人で飲んでいた。  こんな田舎に子洒落たバーなどあるわけもなく、女二人スナックで気ままに語らった。  三十路になろうがなんだろうが、旧友と顔を合わせれば自然と気持ちが若返る。私は後先を考えず、酒をあおりにあおった。  そんな乱暴な飲酒の帰り道。明日は二日酔いだなあ……などと思いながら、弱々しい光の懐中電灯を頼りに自宅に向かっていると、視界の片隅に何者かが映った。 「?」  女一人で夜歩きしておいてこんな事を言うのも何だが、結構遅い時間である。一体何者なのかと目を凝らせてみると、なんとそれは小さな女の子だった。暗くてよく分からないが、道の真ん中で何かを凝視しているようだ。  試しに懐中電灯を向けてみると、少女は眩しそうにこちらを見た。 「……え?」  思わず声が出た。  光を向けられて迷惑そうな表情の少女はしかし、私の方をみると愛くるしく破顔してきた。  そして、ごく親しい人にそうするような感じで、大きく両手を振る。  それは紛れもなく、18年前にいなくなった真由子だった。
/199ページ

最初のコメントを投稿しよう!

122人が本棚に入れています
本棚に追加