壱、平成二十六年

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 いきなり不機嫌になった私を見て戸惑ったのか、案外あっさりと洋子さんは気を落ち着かせてくれた。  それで、結局この人が何者かと言うと。 「私は、この人の同棲相手です」  わずかに顎が上がり、勝ち誇ったような素振りをにじませながら彼女は言った。  私はため息をこぼした。そして、うんざりした顔で翔太を見る。 「……じゃあやっぱり、あんたの家にあった歯ブラシとか女物の服とか、元カノのヤツじゃなくてこの人のものなのね」 「この女、部屋に上げたの!?」  一度は落ち着けた剣幕をすぐにまた荒げ、洋子さんは翔太にくってかかった。 「いや、その……」  いつも何を聞いてもド適当な返事しかしない翔太だが、さすがにこの時は言葉に詰まった様子だった。  あああ。いつかこんな日が来るとは思っていたが、よりによって今日来るか。  私はそう思いながら、怒れる彼女に名前を聞いた。 「名前?……園田洋子、ですけど……?」  自己紹介もする気がなかったのだろうか。意外そうな顔をしながら彼女は答えた。 「園田さん。安心してください。この人、私とは多分遊びで付き合っていただけです」 「おい、待てミサ……」  翔太は何か言いかけたが、洋子さんの一睨みであっさり黙った。 「私が以前そちらの家にお邪魔した時、彼は貴方の私物を、元カノが置いて行ったものだから近々捨てる、て言ったんです」  仏頂面とは、ああいう顔を言うのだろう。洋子さんは不機嫌そのものだった。 「あの雑な嘘を聞かされた時に、ああ、いつか今日みたいな日が来るだろうな、とは思ってました。それでいながらこの関係を続けた事はお詫びしますが、これ以上私はこの人と関係を続けていくつもりはありません」  可哀そうな翔太は何も言えぬまま、顔を真っ赤にして私を睨みつけていた。  おお、おお。どの顔がそんな表情するかね。この二股男。  正直、こんなことを言ったらもっと激しい修羅場になるかもしれないとも思ったのだが、冷めた様子の私を見て妙に安心してしまったのか、洋子さんはそこから何も追求してこなくなった。  これが、私と洋子さんの最初の出会いだ。
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