壱、平成二十六年

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 私はてっきり、これで翔太と縁を切れると思っていた。後は洋子さんが翔太を説得し、私と会わないようにしてくれれば、それでこの問題は解決のはずだった。  ところが翔太のヤツが『洋子よりも美咲の方が良い』などと言い出したから、たまらない。  翔太は、洋子さんと一緒に住んでいるアパートから彼女を追い出そうとし始めた。ちなみに後で聞いた話では、元々このアパートに住んでいたのは洋子さんとの事。当然、名義も彼女のものだ。出ていかなければならないのは、どう考えても翔太の方だった。  残念ながら、この男にはその辺の常識が通じない。出ていけ。嫌よ。何で私が。出口の見えない押し問答が、毎日のように続いていたらしい。  もちろん、私からも翔太に説得を続けていたが、とにかく聞く耳を持たない。私と洋子さんはどうすれば良いか分からず、何度も会って相談をした。こうなると不思議なもので、二人の間には奇妙な連帯感のようなものが生まれていた。翔太は二人の共通の敵になり、洋子さんもヤツとの交際を続けていく意思が無くなっていった。  洋子さんは商社に勤めているキャリアウーマンで、会った時の食事代はいつも彼女が持ってくれていた。何でも出来そうに見えたが料理はまるで苦手らしく、いつも奢ってもらっている御礼にと私が手料理を振る舞った時には、子供のように目を輝かせて凄い凄いと褒めてくれた。洋子さんは容姿端麗で美人だったが、笑った時の洋子さんの顔は可愛らしかった。  悪い人ではないんだな、と思った。私と洋子さんは、短い期間に何回も会った。  そして、ようやく翔太が彼女の部屋から出ていくことが決まりかけ、明日はそのお祝いをしようと連絡を交わしたその日の深夜。翔太からの呼び出しがあり、もうすぐ彼がいなくなるはずの部屋に私は招き入れられた。  そして、今に至るのだが。
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