参、昭和四十二年

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「あのね……」  事実、  弘一の話は衝撃的なものだった。 「……ゆいちゃんと、仲良くなったんだ」  はじめは、その言葉が何を意味しているのか分からなかった。近所に「ゆい」という名前の子供はいなかったからだ。  が、 「……もしかして、おゆいさまの事か?」  父の言葉に、全員の表情が固まる。 「バカ言わないでよ。あんなの伝説上の妖怪でしょ?」  すかさず、妻が指摘する。 「本当にいるもん!」  弘一も負けじと、間髪入れずに言い返す。 「誰も信じないから言うなって言われたけど、ゆいちゃん本当にいるもん!」 「やめなさい!親をからかうんじゃありません!」 「いるもん!本当だもん!」 「夢でも見たのよ!あんた、いい加減にしなさいよ!」 「絶対いるもん!毎日会いに行ってるんだから!」 「おい、待て」  ぎょっとした俺は、思わず弘一の発言を制止した。 「……お前もしかして、毎日黄泉小径へ通ってるのか」  夏休みの初日に、あまりそこへは行くなと注意していた手前、今の発言は看過出来なかった。  弘一は、俺にも食ってかかってきた。 「だって!ゆいちゃんずっとあの竹藪に一人っきりで、友達いなくてさびしいって言ったんだもん!かわいそうだったんだもん!」  一歩も譲る様子のない息子。  俺達は困惑顔で、お互いを見合った。  しょうがない息子だが、そこまで凝った嘘のつける器ではない。誰かに騙されているのか、それとも妻の言うとおり夢でも見たのだろうか? とてもじゃないが、その判断は俺にはつきかねた。
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