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「あのね……」
事実、
弘一の話は衝撃的なものだった。
「……ゆいちゃんと、仲良くなったんだ」
はじめは、その言葉が何を意味しているのか分からなかった。近所に「ゆい」という名前の子供はいなかったからだ。
が、
「……もしかして、おゆいさまの事か?」
父の言葉に、全員の表情が固まる。
「バカ言わないでよ。あんなの伝説上の妖怪でしょ?」
すかさず、妻が指摘する。
「本当にいるもん!」
弘一も負けじと、間髪入れずに言い返す。
「誰も信じないから言うなって言われたけど、ゆいちゃん本当にいるもん!」
「やめなさい!親をからかうんじゃありません!」
「いるもん!本当だもん!」
「夢でも見たのよ!あんた、いい加減にしなさいよ!」
「絶対いるもん!毎日会いに行ってるんだから!」
「おい、待て」
ぎょっとした俺は、思わず弘一の発言を制止した。
「……お前もしかして、毎日黄泉小径へ通ってるのか」
夏休みの初日に、あまりそこへは行くなと注意していた手前、今の発言は看過出来なかった。
弘一は、俺にも食ってかかってきた。
「だって!ゆいちゃんずっとあの竹藪に一人っきりで、友達いなくてさびしいって言ったんだもん!かわいそうだったんだもん!」
一歩も譲る様子のない息子。
俺達は困惑顔で、お互いを見合った。
しょうがない息子だが、そこまで凝った嘘のつける器ではない。誰かに騙されているのか、それとも妻の言うとおり夢でも見たのだろうか? とてもじゃないが、その判断は俺にはつきかねた。
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