壱、平成二十六年

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   * 深夜 1:45 *  私と翔太は私服が血で汚れないよう、まず翔太のジャージに二人して着替えた。  大量の血が毛布に染みて見えてこないように、洋子さんの体は何重にも新聞紙で覆われてから毛布に包まれた。  そして、もう一度元の服に着替えなおす前に、手など血のついている部分をシャワールームで洗い落とす。  さっき使ったばかりらしいシャワールームだった。翔太は、私を呼ぶ前にシャワーをすでに一度浴びていたのだ。自首の言葉は、ハナからこの男の頭にはなかったようだ。  身綺麗にしてから、洋子さんを二人で運ぶ。翔太はとにかく腕力が無く、本当に男か疑うくらいのレベルなのだが、幸か不幸か洋子さんは非常に華奢で、私と二人がかりなら何とか運べた。  翔太の派手なスポーツカーの荷台に洋子さんの遺体を積み、私と翔太はアパートを後にした。  いかにも路地裏といった感じの狭い道から、とりあえず広い国道に出る。 「……美咲」  翔太が不意に私を呼んだ。 「何?」  私は、おずおずと無表情なままの彼を見た。 「オレの事、キライか?」  言ってから、翔太はわずかに顎を引いた。運転が上目使いになる。  それは、私に何かをねだる時にやってくる、癖のようなものだった。いつもはクソむかつくような甘えた笑顔でやってくる仕草なのだが。 「……刃物で人を脅しておいて言うセリフじゃないでしょ?」  敢えて、いつものノリでそっけなく返した。  時々、少しだけいつもの翔太が返ってくる。それを見るたびに、何とも言えず心が変に揺さぶられる。
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