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「……お隣の旦那さん、3日前に亡くなったのよ?」
「え?」
妻の言っていることがわからなかった。
だって、あのときの旦那さんは普通に見えた。仲良く買い物帰りかなっと思ったぐらいだ。
それじゃ何か、俺は幽霊にあったのだろうか。
ぞわりと、体の奥から背筋にかけて寒気が走った。
それと同時に、嫌な感じがする。
なんだろう、何か大事なことを忘れているようなそんな感じだ。
俺は一体、何を忘れているんだ?
気分が悪くなってきた。
そんな俺の様子に、妻は不思議そうに首を傾げている。
その時、家の電話が鳴った。
「っ……!!」
いきなりのそれに、俺は跳び跳ねる。
なんだか、俺はその電話の内容を知っている気がした。
妻が電話に出て、少し話をする。
「え……?」
妻の顔色が一気に真っ青になった。
何をいってるんですか、嘘だ、っとしきりに返している。
しばらくして、彼女は電話を切って俺を振り返った。
ああ、そうだった。
青白い顔で俺を見る妻を見て、俺は思い出した。
数時間前のことを。
「……今、警察から電話があって、貴方が殺されたって言われたわ……」
そうだ、俺は殺されたのだ。
帰宅する途中で、通り魔にあった。他の人も何人もやられて。
俺は逃げたけど、後ろから刺されて殺されたのだ。
「嘘よね?」
だって、あなたここにいるじゃない。
そういう妻に、俺は静かに首を横に振った。
そういうことだったのだ。
隣の老夫婦の反応こそが、まさに正しかった。
俺は殺されて、幽霊になった。だから、死んで幽霊になっていた旦那だけが見えていたのだ、俺のことを。見えなければ、もちろん奥さんには挨拶されるわけがない。
俺は、全てを思い出した。
ここに来るまでの出来事を。
そして、何故ここに来たのかを。
「ーー悪いな、一人にしちまって。……もう一度、お前に笑顔でおかえりって言ってもらいたかったんだ」
だから、俺はここに帰って来た。
愛する妻の待つこの家に。
体から力が抜けていくのがわかる。手を見ると、透けていた。
俺には時間がない。
「最後にお前に会えて良かった。ありがとうな」
妻は信じられないと、目を見開いて俺を見ている。その目からは、ぼろぼろと大粒の涙が。
それを拭ってやれないのが残念だが、仕方ない。
ああ、これで最後だ。
「今まで本当にありがとう。ーー愛してるよ」
俺はそう言って、妻に笑いかけた。
そしてーー。
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