浦島は

8/8
前へ
/8ページ
次へ
 いつかこんな日がくるとわかっていたのかもしれない。  浦島に捨てられたとわかった時、ああやっぱりと思ったのだ。  それでも、失ったつらさに変わりはない。  あたしは泣き暮らし、いつ死のうと、そればかり考えていた。 「お母、もう泣かないで」  息子の存在を思い出したのは、浦島が去ってどれぐらい過ぎたころだっただろう。  なにもしないで泣いてばかりいるあたしの生活を、幼い息子が店や浜で物乞いして支えてくれていたのだ。  あたしは何をしていたのだろう……ようやく我に返った。  家も衣服も身体も汚れはてていたのを、必死で清潔な状態に戻した。  店に頼み込んで、また働かせてもらうことにした。  あたしは自分の力で暮らしをたてていかねばならない。  心を強く持って生きねばならない。  あたしには大切な息子がいる。 「おいで」  こざっぱりと姿を整えた息子は、本当に浦島そっくりだった。  ダメな母親を支えた苦労のせいか、少し翳りをおびているところまで、よく似ていた。 「これからは一緒に寝ておくれな」  あたしは閨のなかで息子を抱きしめる。 「お父のかわりに」  大きくなるにつれて、息子はもっと浦島に似てくるだろう。  あたしが、浦島と同じように育ててあげよう。  そして、取り戻した浦島と死ぬまで一緒に暮らすのだ。  あたしは息子にくちづけて笑った。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加