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いつかこんな日がくるとわかっていたのかもしれない。
浦島に捨てられたとわかった時、ああやっぱりと思ったのだ。
それでも、失ったつらさに変わりはない。
あたしは泣き暮らし、いつ死のうと、そればかり考えていた。
「お母、もう泣かないで」
息子の存在を思い出したのは、浦島が去ってどれぐらい過ぎたころだっただろう。
なにもしないで泣いてばかりいるあたしの生活を、幼い息子が店や浜で物乞いして支えてくれていたのだ。
あたしは何をしていたのだろう……ようやく我に返った。
家も衣服も身体も汚れはてていたのを、必死で清潔な状態に戻した。
店に頼み込んで、また働かせてもらうことにした。
あたしは自分の力で暮らしをたてていかねばならない。
心を強く持って生きねばならない。
あたしには大切な息子がいる。
「おいで」
こざっぱりと姿を整えた息子は、本当に浦島そっくりだった。
ダメな母親を支えた苦労のせいか、少し翳りをおびているところまで、よく似ていた。
「これからは一緒に寝ておくれな」
あたしは閨のなかで息子を抱きしめる。
「お父のかわりに」
大きくなるにつれて、息子はもっと浦島に似てくるだろう。
あたしが、浦島と同じように育ててあげよう。
そして、取り戻した浦島と死ぬまで一緒に暮らすのだ。
あたしは息子にくちづけて笑った。
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