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奇異な目に晒されないだろうか?そんな不安が駆け巡る。しかし、命には代えられない。俺はスマホと充電器などの小道具をバックに詰め、散乱したゴミを無造作に蹴りながら玄関のドアノブを掴む。
何年ぶりだろうか、外に出るのは。俺は考える。この部屋から出るべきなのか、と。
「俺みたいなゴミ……ここで死んだ方が正しいんじゃないのか?」
大義名分という4字熟語を知っているだろうか?何か行動しようとする時に、それに正義を付与するという意味だ。
今、外で地震が起きていて、この建物が崩れて俺が死んだとしたなら……それは俺の死に悲劇的な理由を与えてくれるんじゃないのか?両親も仕送りせずに済むし、社会から一人の役立たずが消える。これはどう考えても、結果的には良い方向に転がる。じゃあ、……
俺はドアノブから手を離す。そして、玄関に背を向けて元の安息の地に戻った。布団にくるまり、外から聞こえてくる悲鳴や轟音を聞き流す。
(こっちの方が楽に決まってるじゃないか……体力も無いのに走ったりしても、無意味だ)
俺はスマホを起動し、匿名サイトを閲覧する。そこには地震やら震源地やらと色んなニュースが飛び交っていた。面白がる奴もいれば、不謹慎と騒ぐ奴もいる。実に楽しそうだ。
「くっだらね……」
俺はスマホを放り投げ、枕に顔をうずめる。埃臭いそれは俺自身の体温を利用して、暖かく受け入れる。もし擬人化するなら布団と枕こそが最高だと唐突に思った。圧迫感と意識が落ちていくのを感じながら、ダラダラと眠りについていく。
せめて、俺が意識を落ちている時に速やかに命が刈り取られている事を願う。
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