オカエリとタダイマの小さな事件簿

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「青龍、白虎、朱雀、玄武、勾陳、帝台、文王、三台、玉女」  陰陽の九字も効かないか。平気な顔、顔がないから分からないが、笑っているようだ。期待はしていなかったが、こうまで期待を裏切るとは思わなかった。 「次いで護符!」  顔に貼った退魔の護符を飲み込むように吸収している。しかも圧が強くなった。もっと強力な術が使う為の道具があれば……タダイマの足元に転がるモップを取りあえずの代用品に。 「タダイマ、そのモップこっちに渡してっ!」 「あ、ああ、あっ」 「黙ってっ!」  鈍感なタダイマにも見えてると言う事は、感じた以上に強力な相手かもしれない。それにしても、やっと声を発したと思ったら、ありきたりな怯えの雑音とは。まったく。祓詞を上げる邪魔にしかならない。ただでさえ、大幣の代わりに掃除道具を使うのに、せめてハタキくらいあれば。 「ごめん~うっ」 「だからっ、大丈……」  気を失ったタダイマの事は心配だが、今は集中。無駄な言葉は早々に切り捨て、揺ぎ無い心を保ち、定められたリズムで言霊を紡ぐ。
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