ある少年とのお話

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 私と彼との出会いは一カ月前、ちょうど今日のように残業で日付を超えた時に帰ってきた日の事だった。  お昼が終わった後はお茶しか口にしていなかったが、夕ご飯を食べる気力はもうとうの昔に失われている。シャワーだけ浴びてさっさと寝てしまおう……、そう思い自室の扉へと目を向けた。……あれ、私今日部屋の電気消し忘れたっけ。部屋へと続く廊下の電気は消えており、暗い中に浮かぶ自室の灯りが私に恐怖を与えた。やだもしかして、不審者……!?早く誰かに知らせなきゃ!そう思った私は急いでけれど静かに回れ右をして玄関を目指した。その時私の耳に奇妙な音が飛び込んできた。  ぽきゅ……ぽきゅ……  その音を私の耳が拾った瞬間、私の中の何かが弾けた。  玄関に向かいかけていた足を再び部屋の方に向け、扉に手を伸ばす。だって、あの音は……!そしてドアノブに手をかけ思い切り引くと、部屋にいた人物に向かって叫んだ。 「返せ、私のおつまみ(きゅうり)!!」  あのぽきゅという独特な音は実家から送られてくるきゅうりの漬物を食べる音だったのだ。たまの休日にそれを肴にお酒を飲むという私のささやかな楽しみを奪おうとは、いくら不審者でも許せない……!という若干危ない考えの私の叫びは、中にいた人物に十分といっていいほど効果のあるものだった。 「ひいっ!!」  その証拠に中にいた人物は悲鳴を上げ私の方を向く。いや正しくは「人物」ではなかった。私の楽しみを食べていた犯人には、足がなかった―――そう、「幽霊」だったのだ。
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