ロング・コールドスリープ

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 薄闇を抜けて、徐々に意識がはっきりしてきた。 「お目覚めですか。おかえりなさい」  カプセルに寝かされている自分の身体が認識できた。声はスピーカーを通して聞こえてくる。カプセルの内側に貼り付けらたELモニターに白衣の女性が映っている。医者か技術者だろう。 「夢の世界から戻ってきたってところかな。ただいま」 「状況はお分かりですか?」 「目覚めたってことは、病気の治療法が開発されたんだね」 「そのとおりです、おめでとうございます。申し遅れましたが、私は藤沢様の担当をさせていただく、佐々木・マリアナキョーコと申します。以後、よろしくお願いします」  不治の病と言われたアルドンス病にかかった僕は、未来に治療法が確立される事を願ってコールドスリープについていたのだ。 「ところで、今は何年になるのかな?」 「修輝12年、ええと、西暦2138年です。コンティニュアス・ヒュプノペディアに問題がありましたか?」 「いや。念のため確認してみただけだよ」  わかってはいたけど、本当に100年以上も経っているんだ……。  コールドスリープしている間にも、世界は進化する。その間の知識が無いと、例え病気が治っても目覚めた時代で生活できない。そのため、コンティニュアス・ヒュプノペディアと呼ばれる睡眠学習の手法で、スリープ中にも様々な情報が脳にインプットされている。なので、今が何年で、この100年で世界がどう変わったかは理解している。 「凍ってるのに、脳は動いているのって不思議だね」 「通称、コールドスリープと言われていますが、凍結しているわけではありませんから。低活動状態と言った方が近いでしょうか」 「つまり、チルド室に入れ忘れてた僕を、ようやく電子レンジでチンしたってわけだ」 「どういうことでしょうか?」 「ああ、ごめん。電子レンジなんてもう無いのか。忘れて。おじいちゃんのたわ言だよ」 「藤沢様は戸籍上は128歳になっているので、おじいさんとも言えますが、肉体的にはコールドスリープについてから2年が経った程度のはずですので、23歳と思っていただければと」 「清い体のまま128歳かぁ。大魔法使いになれそうだ」 「?? テクノロジーの発達は100年前から比べると魔法のようかもしれませんが……?」 「いやいや、いいんだ。古い言い伝え、っていうか迷信みたいなものだから、気にしないで」
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