ロング・コールドスリープ

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 マリアナキョーコは医者でも技師でもなく、僕の秘書兼保証人兼弁護士との事だった。彼女の説明によれば、僕には莫大な資産があるそうだ。元々実家が金持ちで(そうでないとコールドスリープなんてできる訳がない)、両親が遺産を長期運用して僕の手に渡るよう手配してくれていた。彼女はその資産運用担当会社の社員だが、僕が目覚めたので僕個人の専属になるそうだ。 「控え目に言って、やりたい事があれば何でも実現できるだけの資産がありますよ」 「そうなんだ。じゃあまず、フカフカのベッドで寝たいな。なにせこの機械は寝心地が悪くてね、早く出たいよ」 「ベッドですね。手配しておきます」  また冗談を外してしまった。産まれた時代が違うと話がかみ合わないもんだな。  数日をかけて解凍が完了した後、メディカルチェックを受け、アルドンス病の手術をした。あっけないものだった。さんざ待たされて診療がすぐ終わるなんて、昔も今も医者って商売のやり口は変わらないらしい。  術後の経過を見つつ、改めて現代社会の(僕にとっては未来社会だ!)レクチャーを受けると、晴れて退院ということになった。  1ヶ月ぶりに--正確には128年と1ヶ月ぶりだけど--家に帰ると、内装などが微妙に変わっていた。元の家の姿を保ちつつ、設備だけは最新の物にアップデートしてくれているのだそうだ。最新の古民家といったところか。  家には、両親からのビデオメッセージがあった。  自分達が生きている間には治療ができると思っていたが、その見込みが危うくなってきた、と言う両親の姿は、僕の知っている姿からは老い過ぎていた。叶うことなら自分達もコールドスリープにかかりたいが、治療目的以外では認めらていない、ひと目でいいから元気なお前を見たかった、目覚めたら好きなように生きてくれ。そんな事を切々と語る姿が、何年分も記録されていた。  最初から号泣していた僕は、途中で見るのを止めた。老いていく両親の姿を早送りで見せられるのは辛すぎる。これから僕が生きていくのに合わせて、寂しくなったら少しずつ見よう。
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