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マリアナキョーコは優秀だった。あっさりと先方と面会の段取りを組んでくれた。僕の読み通り、向こうもコンタクトを取りたがっていたようだ。しかも、先方は日本人女性で住んでいる場所も近かった。ホログラフィック・チャットも簡単にできる時代だが、古風な僕たちは直接会う事を選んだ。
数日後、待ち合わせのカフェに行くと、その人は、この時代からするとレトロ趣味な、僕からすると最先端の服を着て待っていた。
「水品さんですか?」
「藤沢さん?」
「ええ。そうです。ところでその服、アイドルユニットのジュエルスの衣装ですよね?」
「そう! わかる? 大ファンだったのに、目が覚めたら解散してるとか無いよー」
「解散どころか、もう誰も生きてないっていうね」
「言わないで~」
水品由紀恵さんは、僕より2歳年下で、コールドスリープに入った時期もほぼ同じだった。期待どおり、話が合いそうな同時代人で安心した。
「それにしても、初対面の相手と合うのに、その格好で来る?」
「いやぁ、見た目ですぐわかってもらえるかなーって」
「わかるけど、アイドル服って! ここ100年で一番面白いね」
僕達はひとしきり、芸能人や映画の話、あの時代の流行の話で盛り上がった。ずっと過去を振り返っているわけにはいかないが、今だけは許してほしい。僕達にとって、感覚的には1ヶ月前の事なのだ。
とはいえ、様々な人のおかげで生かしてもらった以上、前を向いて人生を進む必要がある。それは孤独な作業かと思えていたが、彼女と一緒なら楽しく進めるんじゃないかと思えた。会ったばかりだけど、きっとそうできると確信した。僕の未来は今じゃない、これからだと、希望に胸が膨らんだ。
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