ロング・コールドスリープ

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☆★☆  棺桶のようにも見えるそのカプセルを眺めながら、何度繰り返したかわからない疑問をまた繰り返す。コールドスリーパーは夢を見るんじゃろうか? 儂にはわからん。ただ、その可能性を捨てきれない以上、儂はメンテナンスを続ける。  この中におる藤沢佑樹君は時代に見捨てられた若者じゃ。アルドンス病の治療法に望みを託してコールドスリープという方法を選んだということだが、今はもうアルドンス病治療の研究は行われおらん。ここ50年以上発症例がなく、時代環境的な何らかの要素が原因だったのだろう、ということで放っておかれておる。現在、彼が世界で唯一の発症者というわけじゃ。そんな病気の研究に費用をかけるよりは、コールドスリープのままほったらかしておった方がコストがかからんという訳だ。実利第一主義の嫌な世の中になったもんじゃ。  治療法が見つからん以上、彼が目覚めることは無いじゃろう。それでももし、夢を見ているのなら、せめて楽しい夢を見てもらいたい。そう思って、儂は、儂が捏造した明るい世界の情報と、彼が望むであろう生い立ちをコンティニュアス・ヒュプノペディアに乗せて、彼の頭脳に送り込み続ける。
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