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 健一郎は自分の質問を彼女にぶつける。それに対し、彼女はどこから取り出したのか煙管(キセル)を取り出して嗜んでいた。そして、口から煙を吐き出しながら遠い目で空を見る。 「まあ、そうだね。何故、自分の名前を欲しがっているのか……というのは私も考えたことはあるよ」    健一郎は彼女に向き直り、彼女の口から発する次の言葉に集中する。 「まあ、言うなれば昔の私も、お前も、元々の世界にいる人間達も、……何かに縛られたいのさ」   そこまで言うと、彼女はまた煙管を口に持っていき吸い込む。そして、十分吸い込んだのか上へと吸い込んだ煙を吐いた。 「縛られたい……?」  健一郎は彼女の言葉に疑問を感じながら復唱する。それに対し、彼女は頷いた。 「家、国、人間の価値観、色んなものに自分や他人を縛り付けたいのさ。そうやって、実体が見える仲間がいる事で安心できる。それ以外の不明瞭な存在が怖いから……縛っていたい」 「だから、人は名前を欲すると」  健一郎は妙に納得していた。そうだ、確かに人は他者を恐れ続けている。そして、名前があるという事で親や友人、国籍が分かり不安が取り除かれるのだ。だが、それでも根本的なモノは納得していなかった。 「そういうことさ、名前だけで言うならね。例えば、」  彼女は上を指さす。すると、満天の星空に天の川が美しく光り輝いていた。 「とても……綺麗です」  健一郎だけではない。ここにいる者達も龍神様も皆、その何光年、何万光年と離れていても生きていた証拠である光の輝きを見届けていた。科学を進化させて本質が分からなくなっていた健一郎には、その景色から何か大切な事を諭されているようにも感じた。 「あらあら、何を泣いているんだい……」  彼女は健一郎が泣いている事に気づき、ハンカチで優しく彼の目元を拭う。そして、それを彼に渡した。 「すみません、ありがとうございます」 「良いさ、めったに私達……いや、小僧の世界では観れるもんじゃない。私も最初は泣いてしまったもんさ」  彼女は少々寂しげに、そう言った。そして、また元の話を続ける。 「良いかい?あの星々には小僧の世界では名前があるだろう」  はい、と健一郎は相槌を打つ。
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