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(身体を洗うか……あの水は綺麗なんだろうか?)
健一郎は寝間着を丸く転がしてまとめ、付属の紐で丁寧に縛る。一週間も横になっていたのに、不思議と汗の臭いはそこまできつくはなかった。これならば、そこの水龍が落ち続けている池で一度漬けて乾かせば全く問題無いだろう。
健一郎は近くに置いてあった旅行鞄から安そうなシャツと下着・ズボン、タオルを取り出す。そして、小屋の外を出て池に向かった。
「裸の人間だ……変な奴め……」
「1週間眠り続けていたらしい、食べてやろうか」
「駄目だ。龍神様が怒られるぞ。」
また、どこからか声がする。だが、健一郎は慣れたように飄々と足を進めた。そして、近くの岩に服を置き、池の水を覗き込んで水質を確認する。
「うん、これなら大丈夫だろう。虹の色も掛かっていないようだ」
そう言い、健一郎は池にタオルを軽く沈める。そして、すぐに引っ張り上げて水に濡らした部分を絞った。すると、近くの岩に落ちたのか絞った水が跳ねて彼の体をゾクリと震わせる。
「うわっ!」
その様を見ていたのか、小さな小さな笑い声が聞こえる。健一郎はそれを聞きながら、静かに岩に座って体を拭き始める。チカチカと肌に反射する光を見て、彼は上を向いて空を仰ぎ見る。すると、木々が連ねた葉々の隙間からチカチカと幾数十も太陽の光が差し込んでいる。
「綺麗だろう、ここの空は」
健一郎は隣から年老いた男の声を聴く。そして、顔の向きを戻して声のした方向に目をやる。すると、そこには体の至る場所に鱗を着け、また顔に怒った龍の仮面を被った着物の男がいた。彼の髪は白くまた縮れ、仮面の下を見ずとも高齢を伺わせていた。
「はい、龍神様」
健一郎は短く答えた。その答えに満足したのか、龍の仮面を被った老人改め龍神様は大きく頷く。
「そうだろう、そうだろう。ここは檻だが、この空は私達に至福を与えてくれる。優しい場所だ……」
龍神様は空を見続けながら、健一郎に言い聞かせるように話す。彼もまた空を仰ぎ見ては、その美景を目に焼き付ける。太陽の光である為に裸眼には悪い筈なのだが、不思議とここの光は彼にとって暖かい気持ちにさせた。
「人の子よ。……7日間の時間から、何か得られるものはあったかね?」
龍神様は健一郎に聞く。彼はジッと光達を見つめながら、数秒考える。そして、
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