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「名前が無いことに困る事は無いのか?」
健一郎は何の気無しに質問する。これには素早く答えが返ってきた。
「無いな。ここにいる我らの仲間は皆、俺を見た瞬間すぐに俺だと認識する。名など我々には全く必要無い」
名前が必要無い。健一郎は考える。元の世界では世界中の人間達に名前があった。簡単に誰が誰なのかを見分ける為だ。しかし、本当に必要無いのだろうか?
「じゃあ、名前なんて何故あったんだろう?だって、君達も僕も知っているあの水龍には龍神様と名前があるじゃないか。ということは、……必要なんじゃないのか?」
そう言っている内に、ポツンポツンと小さな光が幾つも現れ始めた。星だ。この数時間後には、葉は退いて無数の星が現れるのだろう。そして、それらはあの水龍のように群れを成して天空に川を創るのだ。
「いいや、それは格の高い方を呼ぶときのみに必要なのだ。我らにとって、龍神様は上位の存在。だから、崇め感謝する時に彼に名が必要なのだ。……しかし、愚かな人間は自身を神だと思いたがる。何かに崇められたがり、弱者を欲しがる」
「愚かな人間……愚かな人間……」
ジャガイモ顔の方まで釣られ始めて、人間を蔑む。いや、もしかしたら同情しているのかもしれない。彼等にとっては自分は哀れに思う存在なのかもしれない。
「そうだろうか。けれど、確かに……僕の世界では皆辛そうだった。笑っていても、何かにビクビクと震えていた。どこか目を背けたがっていたのかもしれない。でも、それは何なんだろう」
星が一つまた一つと増えていき、それと同時に辺りに見物客達が集まり始める。それは首の長い女や一つ目の大男、妙に髪の長い者や角を生やした女など様々だ。また、その姿は全く人間では無い者もいる。違う時空から飛んできた者なのだろうか。
「人間だ、人間がいる」
「ほら龍神様が言っていた……」
「面倒な、ここまで来て私の姿を笑いに来たのか」
「しかし、木霊達が載っているぞ?」
彼等はヒソヒソと話し、用心しているのか健一郎に近づいてこない。煩わしいが、健一郎は動かなかった。ここで無茶苦茶に弁明した所で、彼等はソソクサと逃げるだけだろうと判断したからだ。しかし、なかなか彼等は近づいてくる素振りを見せない。弁明するのも仕方ないと考え始めた健一郎だが、それをさせぬが如くフッと龍神様が姿を現した。
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