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「龍神様だ……」
辺りが騒めき、龍神様と皆々が連呼する。そして、健一郎は自分の胸の上で、彼等も龍神様に向かって頭を垂れている事に気が付いた。
「皆怖がる必要は無い。この者に邪気は無い。安心せよ」
龍神様がそう言うと、周りの者達はドヨドヨと話し出す。しかし、すぐに安心したのかこっちに近づいてきてそれぞれ好きな場所に座り始める。
「よお、人間の小僧」
その中に健一郎に話しかける者が居た。それは遊女の恰好をした首の長い女だった。俗に言うろくろ首という者だろうか。彼女は彼に近づき、すぐ横の岩に腰かけた。
「初めまして、僕は~」
「ああ、名乗る必要は無いよ。ここにいるほとんどの皆が龍神様から聞いてる」
彼女はそう言いながら、健一郎の上に載っている二人をつまみ地面に降ろす。すると、彼等はどこかに走っていった。目で追うと、彼等と似た姿をした者達が50~100ほど集まっていた。二人の姿はその中に紛れ、見分けがつかなくなってしまった。
「……では、あなたの名前は?」
健一郎は彼女に質問する。しかし、彼女は首を横に振った。彼女も名前は持っていないらしい。
「ここにいる者達は、名前なんか持っちゃいないのさ。今この場で持っているのは、龍神様と小僧のお前だけさ」
「そうですか」
また上を見上げると、段々と太陽が沈んでいき星空が完成に近づき始めていた。人工的な光も無いここでは、もう夜が始まった途端に多くの星々が姿を現し始めていた。
「あなた達は、名前が無くても良いと思う理由は何なんですか?」
健一郎が暗くなっていく空を見ながら、彼女に問いかけた。そして、逆ひょうたん顔に聞いた時と同じように彼女は間髪入れずに答える。
「そりゃあ必要が無いからさ。ここにいる皆が一目で私を私だと判別出来るから、名前など要らぬのだ。私は私なのだから」
彼女も同じような答えだった。『私は私なのだ』という言葉が健一郎を強く揺らす。揺らめきある海に漂っていた船乗り達が、突然の如く襲来した嵐に飲み込まれるようだ。納得できない根本から、幾つもの質問が溢れ理解出来ないと自分が自分に訴える。
「じゃあ、何故僕達はソレを必要とするのでしょう」
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