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「貴様ー!!凶暴すぎるぞー!!」
力加減を一切しないデコピンは、吸血鬼の力をもってすれば他の生命体なぞ肉体を著しく損傷するほどの威力だ。
喚くオズワルドの声が、もう前を向いて旅立っていく彼女への一番の餞になっていた。
「もう、本当に馬鹿ね、あの子は。」
避ければいいのに避けずにあんなものをくらって。
彼女が遠慮なく叩いたり蹴ったりしても、文句は言うが避けないのは、昔からだ。
吸血鬼に肉親だとか家族だとかいう認識はほとんどないが、やはり一番近いのは弟という感覚なのかもしれないと、カーミラは口許が緩むのを抑えられなかった。
「さあて!どうせ、あの子もそのうちここから飛び出してくるでしょう!それまでに、人間社会で大成功しておいてやるわ!ああ、わくわくする!」
死人のような時の止まった胸に、晴れやかな希望と期待が満ちる。
そうして、カーミラは旅に出た。
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