裏道レストラン

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   そんな風に言われて描き続けられるわけがない。  キッチンの方へ目を向け、『一刻も早く茹で上げろ』と念を送る。  『それでねー』と、斜め後ろから聞こえてくるさっきの恋バナの続きは、更に面白い展開になっていた。  頑張れ!! 私の記憶力!! 可愛いコの容姿はもう描いたし、あとは恋バナを忘れぬ様、斜め後ろに全神経を尖らせていると、  「お待たせしました。日替わりパスタです」  先程のイケメンがパスタを片手にやってきた。  諦めよう。さっさと食べてここを出よう。  だって、イケメンの視線が怖いし。  「ごゆっくりどうぞ」  などと言いながら、イケメンはパスタを私の前に置いてくれたけど、腹の中では『早く帰れよ、変質者』って思ってるに違いない。  フォークに分厚くパスタを絡めて、無理矢理口に突っ込む。  うま。 美味すぎる。  変質者さながら、鼻からフーと息が漏れ、口元が勝手に緩む。  他のパスタも食べてみたいなー。  イヤ。無理だ。もうこのお店には来られない。  ふと、あのイケメンと目が合ってしまった。  そうだ。そんなのどうでもいいから早く食べ切ろう。居心地が悪い。  パスタを巻く時間も削減したい。  蕎麦をすするかの様に、勢いよくパスタを吸い込んだ。
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