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「じゃあ、何で名前を変えた? 何でお父さんにもお母さんにも言わなかった? 下品だと分かっていたからだろう? 恥だと自覚していたからだろう?」
千秋の父親は声を荒げることはしないが、確実に怒りを放っていた。
「お父さんが、嫌がると思った」
さっきまで睨みを効かせていた千秋が俯き、悲しそうに弱々しく呟く。
「だったら今すぐ辞めなさい。代わりの漫画家はいくらでもいるだろう」
「辞めない」
下を向いたままの千秋は、父親の話に首を縦に振らず、テーブルの下でスカートをグっと握り締めていた。
「お前がこんな漫画を描いている事が近所に知れたら、恥ずかしい思いをするのは家族の方なんだぞ!!」
自分の言う事を聞き入れない千秋に苛立ちを抑えられなくなった千秋の父親が、遂に大きな声を出した。
驚いた他の客の視線が、千秋の席に注がれる。
それに気付いた千秋の父親が咳払いをし、呼吸を整えた。
千秋の父親の気持ちは理解出来る。
千秋だって分かってるはず。
千秋が譲れない気持ちも理解出来る。
でも、千秋の父親には千秋の気持ちが分らない。
千秋があの漫画を描く事に悩んでいた事、苦労していた事を、彼は知らない。
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