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歩き疲れた二人は人気の無い場所で足を休めていた。
すると突然、背後から爆音が聞こえる。
驚いて振り向くと、色とりどりの幻想的な花火が夜空に輝いていた。
「……綺麗ね」
「ああ、綺麗だな」
ふと横を見ると、花火の光に照らされた千尋の顔が驚くほど可愛く見える。
誠司は心臓がいつもより早く動いている気がした。
ドキドキしているなんて、俺には似合わない。千尋に悟られたくない。
そう考えた誠司は、柄にもなく大きな声を上げた。
「たっ……たまやー!」
千尋はいつもと違う誠司に少し驚いたが、少しだけ笑って後に続く。
「ふふっ……かにやー!」
……
……
かにや? 蟹屋?
蟹を売っている店の事か? 店のオヤジが花火を?
鍵屋は江戸時代から続いている老舗だから、この掛け声は失礼じゃないか?
そんな事を考えている誠司の顔を千尋が覗き込む。
「どうしたの?」
「いや……なんでもないよ」
千尋の笑顔を見続けたい誠司は、やはり真実を伝えなかった。
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