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夜になると二人はそれぞれの実家へ帰り、夏祭りへ行く準備をする。
誠司はシャワーを浴びて甚平に着替え、千尋の家へと向かった。
「誠司、遅いよ」
すると、すでに浴衣へ着替えた千尋が家の前に立っている。
「ごめんよ」
「浴衣可愛いね……とか言わないの?」
浴衣を着た千尋が可愛い……そう頭に思い浮かべたが、やる気の無い誠司はそっけない返事をした。
「うん、可愛いよ」
「そう? ありがと……」
二人は自然と手を繋ぎ、夏祭りの会場を目指して歩き出した。
――祭り会場に着くと、屋台が並ぶ道をゆっくりと歩いた。
田舎の夏祭りにしては規模が大きく、人の多さに目まいがする誠司。
それとは対照的に、千尋は楽しそうだ。
「このタコ焼き、美味しい……あっ、焼きトウモロコシがあるね」
暫く屋台を見て回ると、急に立ち止まった千尋が珍しそうに何かを見つめている。
「どうした?」
「あそこの屋台に置いてある……ボイスチェンジャーって、声が高くなるやつよね?」
「そうだな。……欲しいのか?」
「別にいらない。ただ、どういう仕組みで声が高くなるのかなって考えてたの。うーん……えっと……確かスペシウムとかいうガスが入っていて、それを吸い込むと声が高くなるのよね」
スペシウム?
光線でも入っているのか?
スペシウム……ヘリウム……文字数すら合っていない。
「どうしたの?」
「何でもないよ」
夏祭りの楽しい雰囲気を壊さない為に、誠司は真実を伝えなかった。
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