あの夏の囚われの身

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それはきっとほんの一瞬のこと。 だけど、とてつもなく長い時間囚われていたような気がした。 彼の瞳を見ていると、躯に熱く灯るものがあった。 今思えば、その炎は抗いようのないとても卑猥なものだったけれど、子供だった私にはなんであるかは勿論解らず。 その扱い方が解らずに炎は躯中を駆け巡っていた。 その男性は手招きをした。 その手から蜘蛛の糸が出ているかのように、外の世界を殆ど知らない蝶は導かれるようにして屋敷に入っていった。 「僕はね、絵を描く仕事をしているんだ」 「画家?」 「そう、よく知っているね」 彼が立っていた部屋の隣はアトリエで、油絵具特有の臭いがした。 ヌードを描く画家であることはいくつか描きかけのキャンバスから察しがついた。 頭の中でけたたましいサイレンが鳴り響いていた。 一方で、抗いようのない衝動のようなものが幼い少女を駆り立てていた。
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