2人が本棚に入れています
本棚に追加
隣で言葉に詰まっている彼女とはうらはらに、夏の蝉は騒々しい。
いつまでもここにいる理由もないし、そろそろ涼しい場所に移動したい。
図書館にでも入り浸るか……そう思いつつ、立ち上がる。
「じゃ、そのお代、よろしくね」
軽く伸びて、後ろ手に手を振ったら、彼女は口をぽかんと開けて見上げてきた。
「?!払ってないの?!」
「うん」
「結局万引きじゃない!」
「ううん、君のおごり。君も食べたし。オレ冤罪だったし。傷付いたなぁ」
今度は顔が真っ赤になっていく。
熱中症で倒れないといいなぁ。
やっぱり言葉に詰まる彼女に振り替えって、手を丸めて胸の前に置く。
「早く払わないと、キツネ来ちゃうよ。ま、よ、な、か、に。コンコンってな」
ごちそうさん、と言って背を向けて別れたから、ソイツがそれから本当に払ったかどうかはしらない。
そもそも、ソイツが誰だかもわからない。
だけど、これからは学校が少しだけ、楽しみになった。
ーおしまいー
最初のコメントを投稿しよう!