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この国には春夏秋冬、四つの季節がある。
新緑の若葉が芽吹く青い春
陽炎に誰か夢見る朱い夏
ススキ野に名月浮かぶ白い秋
空風に温もりを知る玄い冬
彼女との出会いは、珍しく深々と雪が降り積もった十一月の中頃だった。
まだ紅葉が残っていると言うのに異常気象の一種であるのか、一晩にして一面が銀世界に染まった日の夕方。
吐息を白く凍らせながら寒さに身体を縮めて歩いていると、小さな神社へと続く階段に誰かがうずくまっているのが見えた。
氷点下を下回る寒空の下、ぼろぼろの布を纏いっている彼女の姿に、そのまま無視して通り過ぎることができなかった僕は、そっと声をかけた。
「あの、大丈夫ですか?」
何度か声をかけたが反応はなく、もしかして死んでいるのではないかと思った僕は、思い切って彼女の肩を揺らした。
「あの、もしもーし」
眠そうに顔を上げた彼女の肩から、お粗末な布がずり落ちる。その下には真っ白なワンピースを着ていて、見るからに寒そうだったが、彼女は涼しそうな表情でこっちを見ていた。
「寒くないの?」
「寒いの好きだから」
「そう、ですか……」
歳は僕と同じくらいだろうか。細い体は雪のように白く、艶やかな黒髪と対照的で綺麗だった。
「あの」
「ん?」
「何をしてるんですか?」
「特に何も」
「はぁ……」
なんとも素っ気ない態度。
話題探しに困った僕は、辺りをキョロキョロと見渡した。数メートル離れた所に、無機質な光を放つ自動販売機を見つけた僕は、飲み物を買うことにした。暖かいお茶とホットレモンを購入し、彼女の元に戻る。
「寒いでしょ? どっちがいい?」
彼女は差し出されたペットボトルに視線を向けると小さく呟いた。
「暖かい?」
「えっ、うん。冷たいのがよかった?」
彼女は何も答えずに視線を落とすと、静かに瞼を閉じた。
この子は一体何なんだ。こうしている間にも降り続ける雪は止めどなく、彼女の黒髪を白く凍らせていく。
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