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「ねえ、風邪ひくよ?」
「……」
このまま放置することも考えたが、明日のニュースにでもなったら寝覚めが悪い。
「ねえ、家に帰らないの?」
「……」
「もしかして、家出とか?」
「……」
「はぁ、どうしよう」
「…す…た」
「なに?」
「お腹空いた」
「たべもの?」
「うん」
「何が食べたいの?」
「かき氷」
「かき氷?! 今、冬だよ? 雪めっちゃ降ってるけど」
「じゃあ、アイスクリーム」
「いやいや、あんまり変わんないよそれ!」
人形のように整った顔付で上目使いをされると、断れるはずもなかった。
「買ってくるからちょっと待ってて」
「うん」
近くのコンビニに向かった僕は、店員の怪訝そうな視線を潜り抜けて大量のアイスを購入した。急いで彼女の元に戻ると、同じ場所で同じように縮こまっていた。
「お待たせ」
「だれ?」
「誰って」
「?」
「まあ、いいや。ほらアイス、かき氷もあるよ」
「わー」
コンビニ袋を受け取った彼女は、じっと中を覗き込むと嬉しそうに声を上げた。すっかり冷たくなったお茶を飲みながら、僕は彼女を見下ろしていた。
どうしてこんなにも彼女の事が気にかかるんだろうか。確かに見た目は好みだけれど、それ以上に引っかかるのは遠い記憶に起因するかもしれない。
「これからどうするの?」
「ん?」
「ずっとここにいる訳にはいかないでしょ?」
「でも、おうち」
「家に帰りたくない訳でもあるの?」
「……」
答える代わりにかき氷を取り出した彼女は、黙々と食べ始めた。
「困ったな……」
「こまった、こまった」
彼女は嬉しそうにアイスを並べている。どれから食べようか考えているようだ。僕の家に連れて帰っても良いけど、誘拐とかで世間が騒ぎ始めたら大変だ。
道を行く街の人たちは、階段に座り込む僕たちをちらりと見ると、足早に去って行く。警察に相談した方が良いのだろうか。
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