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カクテル
彩芽は最近、カクテル作りに凝っていた。シェイク、ステア、ビルド、ブレンド……何でもござれだ。今日はブレンドにしよ。
ミキサーにクラッシュ・ド・アイス、リキュール、苺、バナナを放り込みボタンを押す。
ウィィ~ン!長い時間やらないのがコツだ。
学生時代に先輩にごちそうしてもらった、ボンベイ・サファイアは美味しかった。
10種類のハーブと果実をシェイクしてある。あれ以上のカクテルは未だにない。
先輩は優しいし、エッチが上手だった。
お手製カクテルを飲みながら、金原ひとみの《TRIP TRAP 》を読んだ。ハードボイルド+ラブ+ホームな世界観、さすがは芥川賞。
さっきからヤブ蚊が彩芽の膝あたりを狙っている。お気に入りのステテコで羽を休めている。
「こんにゃろ~」
逃げられた!夏なんか嫌いだ!
彩芽は派遣社員として相模原市にある食品会社で働いてる。ボーナスもなくこれ1本では食べていけない。いろいろ、副業をやってる。
ネットプレゼンターはなかなか楽しい。
ネットで写真や絵を売るんだ。遠く離れた沖縄の人が買ってくれたこともある。
その他にも代筆屋や行政モニターなども経験がある。
彩芽のアパートは相模湖の近くにある。バス釣り客以外はあまり寄らない、寂れた街だ。
潰れたパチンコ屋の店先に落書きをされたドラえもんの人形が立っている。目は黒く塗り潰され、口から血が出ている。
夜中に動き出すって都市伝説もある。
翌朝、《バロン食品》に出社すると妙な雰囲気だった。ギスギスしている。
更衣室に入る。
「おはようございます」
28歳の彩芽は平均年齢が50の大奥では、ヒヨッコの部類だ。しかし、みんな親切で夏祭りに行く約束をしている。八王子の祭りはなかなかスゴい。
「あんた誰だっけ?」
南海洋子がジンフィズみたいな冷たい声音で言った。彩芽より2歳年上で、東方神起が好きなので仲がいい。
ミナミではなく、ナンカイって読む。南海トラフにならなきゃいいけど?
「認知症にでもなったの?」
笑い飛ばして彩芽は言った。
「タメ口やめろよ、派遣のクセに」
冷たいな、夏なのに?
「私が一体、何をしたってゆーの?」
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