【4】

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「じゃあ、なんで来たんですか」 「バカ。いきなり札出して男買いたいなんて言うヤバい嬢ちゃん、放っとけねぇだろ。もし俺が断って、代わりにどっかの変態オヤジにでも声掛けたらって、心配になるわ」 「……あたしだって、相手見ます」 「……あと言わせてもらえば、自分で出すっつった二万の上に高い部屋代取られてるし、バッグも、盗ってくださいと言わんばかりに俺の眼の前に置いて風呂入ってるしな」 「貴重品の心配するくらい正気だったら、『買いたい』なんて言いません」 「そりゃ、もっともだ」  声は背中から響いてくる。言葉は乱暴で、煙草のせいかちょっと掠れてるけど、響きは優しい。 「あのビリビリの契約書見たら、なんかあったってのは想像つくけどよ。けど、何があったにしても、自分もっと大事に」  わたしは振り返って彼の両肩を掴んで押し倒した。細く見えるけど、思うより骨ばってがっしりした、男の人の肩だ。 「自分大事にっていうなら、……あたしのために、ちゃんとしてください」  彼がわたしを見上げる目は、どこか悲しそうだった。  ぎらぎらと、好奇心と欲に満ちたあの人たちのそれとは全然違う。
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