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枕元のスイッチに彼が手を伸ばしてパチパチと音がすると全部消えて真っ暗闇になる。
「椿田さん。あたし真っ暗なのは……」
「わーってるよ。えっと……」
試行錯誤してやっと小さな灯りだけになると、彼はわたしを胸に抱いて言った。
「気にすんな。ビクッてなっても、声出ても。笑ったりしねぇから。……大丈夫だ」
はい、と小さく答えたわたしに、彼はもう一度唇を合わせる。
胸に手が触れる、けど、大丈夫だと言われたからか、もう変な反応はしない。ただ、ふるえるような快感が走るだけだ。
椿田さんに全部預けて、何も考えられなくなる頭の中で、どうしても消えない記憶がふとした瞬間によみがえる。わたしは、彼の背中に手を回して強くしがみつく。
思い出しても、大丈夫。今は怖くない……。
一人目は、既婚で二児のパパ。顔を出すだけで嫌な顔をされる営業先で、彼だけが笑顔で話をしてくれた。
休日は子供のサッカークラブに付き合ったり、公園に行ったり。絵に描いたような優しいパパで、わたしもそんな家庭を持ちたいと思うような、憧れだった。その時までは。
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