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「景気のいいことやってんなぁと思っただけだ。誰にも言わねぇよ」
契約書パズルのどのピースを見たのかは分からないけれど、その人はわたしに言った。
年は、四十前後。短髪に細い縁無しの眼鏡と濃いグレーのコート。その辺で飲んだ帰りのサラリーマンぽい。
手すりに背中を預けて煙草をふかしているその人にわたしは歩み寄った。
「なに見ました?」
「わかんね。俺保険には詳しくねぇから」
「見たんじゃないですか」
煙草を噛んだままその人は笑う。
「別にキョーミねぇよ。嬢ちゃんには興味あるけど」
「は?」
はぐらかすように、彼はまた笑う。
「ま、こんなオッサンがそんなこと言ったらキモいわな」
「――――独身ですか?既婚ですか?」
ふと、わたしが言うと、彼は一瞬きょとんとして、苦笑いする。
「アンケートか?」
「いえ。個人的に」
「生まれてこの方41年、ずっと独身。バツもなし」
変な人。
だけど。
「……彼女は?」
「常時募集中。だったら?」
「あなたを買いたいです。一晩」
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