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背中を向けたままの彼に、わたしは言った。
「下の名前、嫌いなんですか?」
「嫌なんだよ。変な、坊さんみたいで。女にも、呼びにくいとか言われて……」
言いかけて、彼は黙ってしまった。
「あの、別に言いたくなかったらいいですから……椿田さん?」
突然彼は振り返って、無言でベッドに入ってきた。
そのまま背中から抱きしめられ、素肌が触れて胸がどきりと鳴った。
「ちょ……あの、覚悟はしてますけど、いきなりは」
「るせぇ。こちとら古傷思い出してトラウマ状態なんだ。ちょっと落ち着かせろ」
「ひゃ」
ぎゅっと彼はわたしの肩のあたりを抱きしめる。
けど、胸とか変なところには触れないように気を遣ってくれている、のは分かる。
「トラウマって……」
「黙れ」
しん、と部屋は静まり返って、冷蔵庫か何かのブーンという音しかしなくて。
一人だった布団の中にこの人が入って、二人分の体温が満ちて、温かくなる。
後ろになんか当たってる感触はあるけど、それ以外はすごく落ち着く、気がした。
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