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 2月。繁華街の中心を流れる川は、両岸のネオンを映していて、真っ暗な水の中に原色の景色が漂っている。  川岸の手すりの上で、手袋を外して、わたしは受け取ったばかりの契約書を広げる。  終身200万の医療保険。成績的には、大した数字にはならないけど、一件という実績は新卒で知識もスキルもベテランに負けるわたしには、大きいものだ。  名前も捺印も日付も完璧なそれを、わたしは真ん中からびりりと破った。一瞬ためらって手を止めたけど、今度は勢いよく破る。  まず半分に。その半分。半分。と破っていくと端から小さな破片が雪のように川面に舞う。もういいかと思って手から放した瞬間強い風が吹いて、わたしは風の向かう先を見る。    個人情報の塊だ。破片とはいえ、誰かが見たら――――。  運の良いことに、ほとんどは暗い川に落ちてゆき、ほっとしていると、風下二、三メートルほどのところに居た黒いコートの男性が一片を手に持って居るのが目に入った。 「あ」  その人は視線に気付いてこちらを向くと、煙草を咥えた口元に笑みを浮かべて、紙切れを手から放した。それはひらひらと風に舞って、水面に落ちた。  
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