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【5】
彼の胸を枕にしているのは、抱きしめられてるからだ、と一瞬後から理解が来た。
「そう言われちゃ、しょーがねぇな」
わたしの頭を撫でて彼は言った。
「一生、男がトラウマになる手伝いするわけには、いかねぇわな。……ぃしょっと」
くるりとわたしをひっくり返して、覆い被さった彼は頬に唇を触れた。そっと撫でるみたいに。
「……してくれるんですか?」
「ハイ。させて頂きますよ。……ただし、なんかワケありみてぇだから、嫌だと思ったらすぐ言いな。そこ触られたくないとか。なんでも」
「……はい」
あ。
……また。
体の奥にまた、小さな火が灯る。
さんざん、嫌な思いしたのに、この人には期待してるのかな――――。
瞼に、頬に触れた唇が、今度はわたしの唇に重なる。
温かくて、柔らかい感触に塞がれて、ふと、思う。あまり煙草臭くない。多少は口漱いだり気を遣ってくれたのかもしれない。
濡れた舌先を唇に感じて、ぴくっとわたしの体は震えた。
「嫌か」
「……嫌じゃないです。平気」
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